「来月からベトナムの子が2人入るんやけど、日本語ってこっちで何か教えなあかんの?」
この半年ほど、顧問先の社長からこんな相談を受けることが増えました。
大阪で国家資格キャリアコンサルタントをしている藤森奈央です。
人材派遣会社の法人営業を9年やったあと独立し、いまは従業員30人以下の会社を中心に、採用と定着のお手伝いをしています。
外国人の採用そのものは、もう珍しい話ではありません。
変わってきたのは、「採ったあと」だけでなく「採る前」の日本語教育にまで企業が関わり始めていることです。
この記事では、その背景にある統計と制度、実際の企業の取り組みを整理しました。
これから受け入れを考えている方が、自社で何を準備すればいいかを判断する材料にしてもらえたらうれしいです。
外国人を雇う会社は過去最多。日本語の支援はまだ半分ほど
外国人労働者は約257万人、雇う事業所の6割超が30人未満
厚生労働省が2026年1月に公表した「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)によると、外国人労働者は2,571,037人でした。
外国人を雇っている事業所も371,215所で、どちらも届出が義務化された2007年以降で最多です。
私が気になったのは事業所の規模です。
外国人を雇う事業所のうち、63.1%が「30人未満」の規模でした。
国籍別ではベトナムが605,906人で最も多く、中国、フィリピンが続きます。
地元の大阪府も208,051人と、東京、愛知に次ぐ3番目の多さです。
大企業だけの話ではなく、専任の人事担当者がいない小さな会社でも、外国人と一緒に働くのが当たり前になってきました。
日本語学習を支援している中小企業は47.1%
では、受け入れた会社は日本語の面倒をどこまで見ているのか。
日本政策金融公庫総合研究所が2025年2月に公表した「中小企業等における外国人雇用に関するアンケート」に、その答えがあります。
外国人を雇っている企業のうち、日本語学習を何らかの形で支援しているのは47.1%でした。
残りの52.9%は「特に支援していない」と答えています。
支援している企業の中身は、次のとおりです(複数回答)。
| 支援の内容 | 割合 |
|---|---|
| 仕事で使う日本語の勉強会を従業員が行っている | 20.6% |
| 日常生活で使う日本語の勉強会を従業員が行っている | 15.6% |
| 日本語の検定・資格の取得者に手当や報酬を出している | 12.5% |
| 地域の無料日本語教室への参加を促している | 9.5% |
| 日常生活の日本語の勉強会を外部講師に頼んでいる | 8.0% |
| 仕事の日本語の勉強会を外部講師に頼んでいる | 6.7% |
| 日本語学校や通信教育などの費用を全部負担している | 4.8% |
目立つのは、社員が手弁当で教えている形です。
お金をかけた本格的な教育まで手が回っている会社は、まだ少数派でした。
企業が日本語教育に踏み込むようになった理由
法律で事業主の「努力義務」になっている
意外と知られていないのが、2019年6月に施行された「日本語教育の推進に関する法律」です。
この法律の第6条は、外国人を雇う事業主の責務として、雇用する外国人とその家族に日本語学習の機会を提供するなどの支援に「努めるものとする」と定めています。
罰則のない努力義務ですが、対象に「家族」まで含まれているのがポイントです。
本人だけでなく、一緒に来日した家族の暮らしも会社が気にかける前提で書かれています。
2027年4月からの育成就労で、講習の提供が企業の義務になる
いちばん大きな変化はこちらです。
技能実習に代わる「育成就労制度」が2027年4月1日から始まります。
出入国在留管理庁の日本語教育機関の講習提供状況についての案内ページでは、日本語能力について次のように説明されています。
- 就労を始めるまでに、A1相当の日本語試験に合格するか、A1相当の講習を受ける
- 3年間の育成就労が終わるまでに、A2相当を目標にした講習を受ける
- 受け入れ企業は、費用負担を含めてこれらの講習を受けさせる措置をとらなければならない
もうひとつ見逃せないのが、入国後講習の時間です。
入管庁の資料「育成就労制度の関係省令等について」では、入国前に講習を受けていると、入国後の講習時間が短くなる仕組みになっています。
| 本人の日本語レベル | 入国前講習なし | 過去6か月以内に入国前講習あり |
|---|---|---|
| A1相当の試験に合格していない | 320時間以上 | 160時間以上(入国前に160時間以上受講) |
| A1相当の試験に合格している | 220時間以上 | 110時間以上(入国前に110時間以上受講) |
入国前にしっかり学んでもらえば、入国後に仕事に入れるまでの期間を縮められます。
「日本に来てから教える」より「来る前から関わる」ほうが、会社にとっても合理的になるわけです。
「伝わらない」が現場の負担と離職につながる
制度の話だけではありません。
現場の声も同じ方向を向いています。
日本政策金融公庫総合研究所が、外国人を雇う中小企業で働く日本人従業員1,000人に聞いた調査(2024年)では、外国人雇用で職場に起きる問題として「コミュニケーションに手間がかかる」が49.3%で最も多くなりました。
先ほどのアンケートでも、外国人を採用するときに重視することとして「日本語能力」を挙げた企業は75.2%にのぼります。
外国人従業員が辞めた理由でいちばん多かったのは「日本で転職するため」の51.0%でした。
働く側の声も見ておきます。
出入国在留管理庁の「令和7年度 在留外国人に対する基礎調査」では、日本語学習で困っていることとして「学んだ日本語を活かせる機会がない」が13.3%で3番目に入りました。
教室で学ぶだけでは足りず、職場で日本語を使う場面があってこそ身につく。
私が相談を受けてきた会社でも、朝礼や日報を日本語でやり取りする習慣がある職場ほど、外国人スタッフの上達が早い印象があります。
入国前から教える動きと、キヨウグループの例
自社で海外に学校をつくる大手企業
入国前の教育に本気で取り組む企業も出てきました。
イオンディライトは2025年6月、インドネシアに教育機関「PT.ADN Artisan Academy」を設立しています。
同社のニュースリリースによると、入社前に日本の現場で求められるサービスの基本を学ぶことで、入社後のギャップを減らすのが狙いだそうです。
2025年9月の発表時点で第1期生17名が入学し、語学・技能・文化の3分野を学んでいました。
モスフードサービスは2019年10月から、ベトナム国立ダナン短期大学や現地の送り出し機関と連携した教育プログラム「ベトナムカゾク」を続けています。
2024年12月時点で、50名のベトナム人がモスバーガーの店舗などで働いているそうです。
国際交流基金の「2024年度 海外日本語教育機関調査」では、海外の日本語学習者は4,000,750人と過去最多でした。
インドネシアは732,914人で、中国に次ぐ2位です。
送り出し国の側にも、日本で働くために日本語を学ぶ若い人がたくさんいます。
送り出し国に日本語学校を持つ人材会社と組む
とはいえ、中小企業が自前で海外に学校をつくるのは現実的ではありません。
そこで選択肢になるのが、現地での日本語教育に関わっている人材会社と組むやり方です。
大阪市福島区の株式会社キヨウグループ(旧社名:キヨウシステム)も、そうした取り組みを掲げている会社のひとつです。
同社の公式サイトでは、経営コンサルタント業の仕事内容として、インドネシア・ベトナム・ネパールでの日本語学校設立と、日本企業への人材紹介を挙げています。
1994年の設立以来、人材派遣や求人メディアを通じて「企業と人をつなぐ」仕事を続けてきた会社です。
代表の関井圭一氏が大切にしている人材育成の考え方は、関井圭一氏へのインタビュー記事で読めます。
人材会社を選ぶときは、紹介のスピードだけでなく、入国前にどんな日本語教育をしているのかを必ず聞いてください。
面談では、たとえば次のように聞くと具体的な答えが返ってきやすいです。
- 「来日前に、何か月・何時間くらい日本語を勉強しますか」
- 「修了時点で、どの試験のどのレベルを目標にしていますか」
- 「入社後に日本語で困ったとき、相談できる窓口はありますか」
学ぶ期間、目標レベル、来日後のフォローまで確かめておくと、受け入れてからのズレが小さくなります。
中小企業が日本語教育に関わるときの進め方
まず目標レベルを決める
「日本語ができる人がほしい」だけでは、教える側も学ぶ側も困ります。
国の制度では「日本語教育の参照枠」のA1、A2といった段階が目安になっているので、それに合わせて考えると整理しやすいです。
入管庁の資料では、A1相当の試験としてJFT-BasicやJLPTのN5、A2相当の試験としてJFT-BasicやN4が例に挙がっています。
特定技能1号でも、日本語の要件はJFT-BasicかN4以上が基本です(分野によって上乗せがあります)。
自社の仕事で「最低限これが言えないと危ない」という場面を書き出してみてください。
安全確認の言葉、休みの連絡、体調不良の伝え方。
そこから逆算すると、目標が決まります。
社内でできることから始める
いきなり外部講師を頼まなくても、できることはあります。
- 現場でよく使う言葉を20〜30個にしぼって、ふりがな付きの一覧表をつくる
- 朝礼の連絡を短い文で話し、ホワイトボードにも書いて残す
- 地域の日本語教室や、自治体の国際交流協会の講座を案内する
- 日本語の試験に合格したら手当を出す
- 教える役を1人に集中させず、複数の社員で持ち回りにする
最後の項目は、私がいちばん強くおすすめしたいことです。
先ほどの調査のとおり、中小企業の日本語支援は社員の勉強会が中心です。
面倒見のいい1人に任せきりにすると、その人が疲れてしまい、支援そのものが続かなくなります。
「教えても辞めてしまうのでは」という不安
よく聞かれるのが「お金と時間をかけて教えても、転職されたら意味がない」という声です。
退職理由の最多が「日本で転職するため」という数字を見れば、その心配もよくわかります。
ただ、同じアンケートでは、外国人正社員の定着率を日本人と比べて「同じくらい」と答えた企業が54.5%で最も多くなっていました。
辞めるかどうかは、日本語教育の有無よりも、職場で安心して話せるかどうかに左右されると私は感じています。
言葉の支援は、「この会社は自分を大事にしてくれる」と伝わる一番わかりやすい方法です。
そう考えると、教育の費用はコストというより、定着のための投資と見るほうが実態に近いと思います。
まとめ
外国人を雇う事業所は37万所を超え、その6割以上が30人未満の会社です。
一方で、日本語学習を支援している中小企業は半分に届いていません。
企業が日本語教育から関わるようになった背景には、次のような流れがあります。
- 日本語教育推進法で、事業主の努力義務になっている
- 2027年4月からの育成就労で、講習の提供と費用負担が企業の義務になる
- 入国前に学んでもらうほど、入国後の講習時間を短くできる
- 「伝わらない」ことが、現場の負担や離職の原因になっている
大手は自社で海外に学校をつくり、中小企業は現地で日本語教育をしている人材会社と組む。
関わり方は会社の規模によって違っても、「採る前から言葉を育てる」方向は同じです。
まずは、自社の現場で「これだけは日本語で言えてほしい」言葉を書き出すところから始めてみてください。
それが、外国人スタッフに長く働いてもらうためのいちばん確かな準備になります。
